鉄路に星影が散る夜半……、ブルートレイン〈さくら〉は暗い山河に一筋の光芒を淡く放って遥かなる西への旅路を駆け続ける。広島→下関EF65形505号機〈さくら〉の朝は広島で明ける。5時……、5月半ばの空はすでに白い。ここから本州の西端‐下関まで、下関運転所の甲組第2/5仕業の乗務員がくさくら〉を走らせる。この仕業は2人とも機関士である。下関運転所では、ベテラン機関士を組み合わせた特急牽引専任の「甲組」の乗務員グループが編成されている。
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下関〜広島間、往復とも特急を牽引する長い乗務だ。仕業ダイヤも広島〜徳山間・徳山〜下関間が表裏に記載されている。徳山1分停車。H機関士にバトンを渡したT機関士が、素早く機関車の内外を点検する。異常なし。「第5閉塞進行!」モーターの唸りと震動がかすかに伝わる広い運転室に、喚呼応答が力強くこだまする。見通しのよい車窓前方に緑一色の山陽路の朝景色が流れる。山陽本線もこのあたりまでくるとローカル色が深い。すれ違う列車の数も少なく、蒸気機関車が時おり煤けた黒い顔を見せる。通過する早朝のホームに客の姿はなく、助役がただひとり列車を見送っている。「福川、3番通過!」……「3番場内進行!」「3番場内進行!」……「3番出発進行’・」「3番出発進行!」……「閉塞中継進行!」「閉塞中継進行!」……「第2閉塞進行上「第2閉塞進行!」……「後部オーライ」「後部オーライ」絶え間なく喚呼応答は続く。東京を遠く離れたとはいえ輸送の大動脈を走る国鉄の代表列車だ。東京から佐世保まで1、300キロメートルの間に追い越す列車は50本、うち急行旅客列車7本、すれ違う列車およそ300本!〈さくら〉は薄日の射す瀬戸内海に沿って走る。上り10パーミルの勾配を弱め界磁FIノッチで登る。時速60キロメートル、揺れはほとんどなく送風機の音だけがものものしい。